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【写真左より:直原・谷生・枝見・白川】
日本テレビグループ社員が語る座談会企画。第1弾の「LGBTQ」に続き、第2弾は「女性」をテーマに、コンテンツ業界のリアルな“今”をお届けします
直原
今回Huluでは、国際女性デーに合わせて「自らの信念に従い生きる女性たち」という特集を行いました。座談会後編では、女性をエンパワーする映像作品についてお話していけたらと思います。
白川
今回の特集ラインナップを見て事前に打ち合わせした時、『RBG』の話で盛り上がりましたよね! 全員が好きで語りたかった(笑)
直原
社会を変えていった女性というテーマをよく表現している作品だと思って、作品の紹介記事も掲載して取り上げたんです。アメリカのカルチャーの中で、この『RBG』で描かれるルース・ベイダー・ギンズバーグ判事はアイコンのような存在なんですよね。日本でも彼女のことがもっと広まって欲しい!
枝見
作品として面白いのはもちろん、実在の人物であるRBGの生きざまだったり、発言の一つ一つがかっこよくて、見ると必ず元気が出ます!
谷生
アメリカで彼女の存在自身がロールモデルとして可視化され、受け入れられていることがまさに、ダイバーシティ&インクルージョンの社会という感じがしますよね。
白川
日本だと選挙の時以外はなかなか最高裁判事の方を意識する機会がないと思いますけれど、その職にある人が、若者にも浸透するようなアイコンになるのはうらやましいなと思います。
谷生
RBGは「最高裁判所の判事は男性と女性がどのような比率になればいいと思いますか?」と聞かれた時に「全員女性にすればいいのよ」って答えるんです。極端だと笑うかもしれないけど、でもこれまで全員男性だったでしょ?それなら全員女性でもいいじゃない、って。
男社会で作られてきたルールの中に切り込んでいった彼女だからこそ持つ言葉の力が本当にみなぎっていて、まさにエンパワーメントされる、強い気づきを与えてくれる作品だなと思います。
枝見
パートナーの方もすごく素敵なんですよね。パートナー自身がすごく優秀な人だったから、RBGがいくら優秀でも彼自身の尊厳が脅かされる心配がなかった、だから彼女のことを支えられたという内容が出てきて、なるほどなと思いました。
谷生
うんうん、パートナーも法律家で同業者だったからこそ、彼女の優秀さがわかったというのもきっと大きいと思うんです。夫婦どちらもキャリアを作っていたからこそ、パートナーの理解や家庭へのコミットメントが生まれて、RBGは結果的にスーパースターになったんですよね。
白川
パートナーも優秀だったからRBGの優秀さを生かせたという側面もあると同時に、仮にパートナーが仕事の面で飛び抜けて優秀じゃなくても、「誰かを支える男性」という生き方も評価されて欲しいです。働く女性をサポートする男性というライフスタイルも、当然の選択肢としてあっていい。パートナー論まで含め色々なことを考えさせられる作品です。
直原
皆さん、他にお好きな作品はありますか?
枝見
『女神の見えざる手』という作品がすごく好きです。ジェシカ・チャステイン演じるロビイストの主人公がとにかくカッコよくて、誰にも理解されなかったとしても、脇目もふらずに自分の信念を貫く姿勢が強くてしなやか! あの生きざまを見ると、自分も仕事を頑張ろうというパワーをもらえます。
女性の物語を見る時に、その女性が感じている怒りをその人たち自身がどう表現して、どう戦うのかという部分に私はすごく興味を持つんです。『RBG』も『女神の見えざる手』も、自分の中にある怒りや疑問に対して、必ず自分の手で決着をつけて自分を納得させていくので、そういうことができる人になりたいなということを思わせてくれる作品なんですよね。
谷生
女性自身が主体として動いて、その行動が物語をドライブしていくところに感動やエンパワーメントがありますよね。ある種の王道で、最後スッキリできて、上質なエンターテインメントだなと思います。
白川
女性が信念を貫いて生きること自体がまだ難しい面があるから、そこにエンターテイメントが生まれる余地があるんでしょうね。
谷生
今回の特集の中でいうと、『ライド・ライク・ア・ガール』がとても気持ちの良いサクセスストーリーですね! 「競馬」という極めて男性が強い社会で輝く女性騎手の実話で、昔のことかと思いきや結構最近の話なんです。
直原
『ライド・ライク・ア・ガール』いいですよね! 10人兄弟の末っ子の女性が主人公なんですけれども、彼女の一つ上のお兄さんがダウン症なんです。そのお兄さんが家族みんなに愛され、仕事もしていてお兄さん自身の不安も描かれたりなど、女性だけではなく家族愛や多様性も含めて描かれているところが素敵だなと思います。
谷生
あの役、モデルになっているミシェル・ペインさんの本当のお兄様が演じてるんですって。
枝見
え、そうなんですか! 映画の最後に実際の映像が出てきた時、そっくりだなぁって思っていたら!
谷生
本人をキャスティングした制作陣に大拍手ですよね。女性のレイチェル・グリフィス監督が、ミシェル・ペインさんがメルボルンカップで優勝した時のスピーチを見て、これを映画にしたいと思って作ったそうなんです。超男性社会である競馬で初めての快挙を成し遂げた女性の姿が可視化されて、それがクリエイターの刺激になり、素晴らしい作品として周囲にも影響を与える、まさにお手本のような女性のエンターテインメントですよね。
白川
LGBTQも含めてマイノリティーは当事者が演じるのがいいんじゃないかというムーブメントもありますけれど、このお兄さんの役には、当事者が演じることと、実話を基にしたフィクションなのにその人のところだけ現実とクロスすることになってるっていう2つの面白さがあるわけですね。
谷生
女性の活躍ストーリーっていうと少し敬遠しがちな方でも、この『ライド・ライク・ア・ガール』は気持ちよく心に染みるのではないかと思います。
白川
僕は自分が同性愛者なので、特集ラインナップの中だと『Lの世界』とその続編をおすすめしたいです。『Lの世界』は2004年に放送されたレズビアンの人たちの群像劇で、レズビアンの友達に聞いてみたらほとんどの人が見ているような、バイブル的な作品なんですね
Huluでは続編の『ジェネレーションQ』という作品が更新されている最中で、こちらは本編の10年後を舞台にしています。両方を見比べると、当時の社会の違いもすごくビビッドにわかるようになっているのが面白いんです。
例えば、『Lの世界』では著名なアスリートがレズビアンであることを隠していて、そのことで生まれる葛藤などが描かれるんですけど、『ジェネレーションQ』の第1話では、前シリーズからの主人公のひとりがオープンなレズビアンとしてロサンゼルス市長選に立候補しているんです。もちろん、まだまだ全ての問題が解決したわけではありませんが、アメリカにおけるLGBTQやレズビアンの女性たちの環境の変化を自分たちも体験できるような作品なんですよ。
直原
『Lの世界』は、描かれている女性がみんなかっこいいですね!
白川
男女のストーリーだと、男性と女性の間には恋愛が生まれ、女性と女性、男性と男性の間には友情やライバル関係が生まれるというルールのもとで物語が作られることが多いですけれども、この作品はほとんどが女性なんですよね。恋愛も友情も、別れた後のゴタゴタも全て女性たちの間でおきて、それが複雑に絡みあいながら魅力的に描かれているストーリーテリングの力に脱帽します。
『ジェネレーションQ』の方で印象的だったのは、ドナーの精子によって生まれたレズビアンカップルの子供が高校生になり、自分の父親を知りたいと思うことで周囲と衝突するシーンが描かれている部分。まさに現代アメリカ社会のLGBTQの問題がちゃんと反映されているところが素晴らしいなと思います。
直原
『スキャンダル』はテレビ業界の話ですが、皆さんいかがですか?
白川
この作品は、ニュース番組のキャスターを決められる立場の男性が、その権力を利用して女性に性的関係を強要していることを告発するという、アメリカのテレビ業界で起きた実話がベース。決して他人事とは思えない作品ですよね。
枝見
権力が悪い方向に向かってしまう過程の描かれ方に説得力があって、自分の周りにも起きていることかもしれないと思わされました。クリアなハッピーエンドではないけれど、良い人も悪い人もパワフルでエンターテインメントとして面白い。行動をおこすこと、立ち上がることの難しさと大切さを、つくづく感じさせられました。
白川
女性の方は見ていてしんどくなるシーンもあったんじゃないかなと思ってしまいました。制作側のトップが男性で、出演者に若い女性が多いという番組はたくさんありますし、ここまで悪質なケースじゃなくても、この作品で描かれる権力構造と同じような性質の「ちょっとした出来事」は実は色々なところにまだまだあるんじゃないかと思います。
作品の中では、性的関係の見返りとしてキャスターの座を得ることを、仕方ないものとして受け入れる女性たちも出てきます。セクハラをする男・ロジャーは、直接的に脅したり暴力を使ったりはせず、チャンスをチラつかせながら「わかるだろ?」と“察し”を求めることで、女性たち自身が選択したかのような状況に追い込むんです。そうすることで、被害者たちも「私が自分の意思でやったことだ」と内面化していく構造がリアルで残酷ですよね。セクハラの見返りにキャスターの座をつかんだ主人公の1人・ケイラの最後のモノローグの重みが、ずっしりと胸に響きました。
枝見
半分強制されているのに自分で選択したように思い込まされて、それが声に出せないような状況って、どんな女性にも起こり得ることだと思います。特に、自分の生き方にきちんとプライドがある女性ほど「自分が被害者になった」とは考えたくないと思う。「自分が選んだ結果だ」という方がきっと自分を納得させやすくて、そういう気持ちを利用されているという構図ですよね。
谷生
私がまだ社会的には男性として生きていた報道記者時代にも、そういう構図を感じる場面がありました。生々しくてすごく怖いし、今も根強く社会が持っている病巣のようなものを描いている作品だと思います。
白川
こういうコメントを読んで、「これは自分には関係ないな」と思った人ほどぜひ見てほしい作品です。
谷生
あとは、今回『マーガレット・サッチャー』を改めて見たらすごく良かった! 先進国で初めて女性リーダーとして国を導いた人で、彼女の仕事の功罪については色々と議論を呼ぶ人ではあるんですけど、その仕事ぶりや人となりは本当にこんな感じだったのかなと思わされるメリルストリープの演技が素晴らしいんです。なりきるために声まで変えているんですよね。
枝見
最初、彼女が認知症の状態になっているところから始まって、回想のような形でストーリーが進むんですよね。彼女の人生を描く時にこの構成にするんだ!という驚きと、素晴らしい画の作りに圧倒されました。成功した姿だけじゃなく、周りから人が離れていくところも描かれていたり、終わり方の味わいも良かったです。
谷生
答えを明確には示さない塩梅がいいんですよね。ぜひ実際にご覧になって感じてみて欲しいです。
直原
それでは最後に、今回の座談会を通して思ったことや、コンテンツ業界を目指す女性たちに向けて伝えたいことがあればぜひお願いします。
枝見
今回改めてパワーのある色々な作品を見たり、私たち自身のことを話して「信念を貫く」ということを考えましたけれども、私は必ずしも成功だけを目指さなくてもいいと思うんです。自分のやりたいことを自分の気持ちに従ってやること、自分の人生を生きるということを大事にするのが一番だと思います。
そして、そういう一人一人の生き方をみんながお互いに心の底から認められる社会になって欲しい。社会というと大きな言葉になってしまいますが、まずは自分の周りにいる人のことを尊重したり、言えないと思っていることを言いやすい環境にしたり、そういうことを自分も実践していかなくては、という気持ちになりました。
白川
僕は男性の立場として、女性が直面している問題は当然男性にも関係するし、もしかしたらその問題の原因を男性が作っているかもしれないよということを、今後も伝えていきたいと思っています。
そして、ジェンダーというのは重層的なアイデンティティの中の一つであって、どんな場面でも最初に男・女で分類されるという意識を変えていきたいですね。例えば僕なら、日本に生まれて、ジェンダーは男で、LGBT当事者で、大阪出身で、日本テレビ社員で…という色々な情報レイヤーがあって、「男性である」ということはその中の一つでしかない。そういう意識が当たり前になる世の中になってほしいと思います。
谷生
国際女性デーのテーマに沿うようなお話をしてきましたが、作品や自分たちのことを語ることによって、女性についての様々な課題が言語化され、可視化され、発信されていくというのがとても重要なことだと思います。読んだ方が気づきを得るきっかけになればいいなと思いますし、反響が私たち自身にも様々なインスピレーションとして返ってくるようになれば、さらに励みにもなりますよね。
白川
今回Huluが特集で選んだ作品は海外作品が中心でしたけれども、ここに日本の女性が作った女性エンパワーメントにつながる作品が、どんどんラインナップされるようになって欲しいですよね。
枝見
本当にそう思います!
直原
枝見さんはじめ、今コンテンツ業界で働く女性たちが多様な働き方を示すことで、女性クリエイターたちが希望を持ってこの業界に入ってきてくれたら嬉しいですね!
Hulu特集「自らの信念に従い生きる女性たち」
多くの困難に直面しながら、自らの信念を持って行動し、成功や幸せを掴み取ろうとする女性が主人公の作品をご紹介します。
https://www.hulu.jp/features/womenspower_sp